月 – 楽しく百人一首

7. 天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山にいでし月かも/安倍仲麿

7. 天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山にいでし月かも/安倍仲麿

あまのはらふりさけみればかすがなる みかさのやまにいでしつきかも(あべのなかまろ)

(訳)
広々とした大空をふり仰いではるかに眺めると、ふるさとの春日にある三笠山にかつてのぼっていた月と同じなのだなあ。

(文法)
・「かも」は詠嘆「〜だなあ」

・「なる」は「〜にある」


(作者)
安倍仲麿(あべのなかまろ)(701~770)

717年、留学生として唐に渡り、科挙に合格。官吏(かんり)として玄宗皇帝に仕えた。中国名は朝衡(ちょうこう)。

詩人の李白(りはく)や王維(おうい)とも交流があった。

753年、35年ぶりの日本へ帰国することになったが、藤原清河らと渡った船が難破。安南(ベトナム)に流れ着き、唐へまた戻ることになった。そしてついに日本には帰れなかった。

 

21. いま来むといひしばかりに長月の ありあけの月を待ち出でつるかな/素性法師

21. いま来むといひしばかりに長月の ありあけの月を待ち出でつるかな/素性法師(そせいほうし)

いまこんと いいしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな

(訳)「すぐ来るよ」とあなたが言ったから待っていたのに長月の明け方の月が出るまで待ちあかしてしまったわ。

(解説)
・長月・・九月

・有明の月・・明け方に残る月

・「一晩中待った」という「一夜説」と、春から秋まで、長月(9月)まで数ヶ月も待ったという「月来説(つきごろせつ)」がある。

・女性の気持ちになって詠んだ歌。


(作者)素性法師(そせいほうし)。良岑玄利(よしみねのはるとし)。三十六歌仙の1人。12「あまつかぜ」僧正遍照の息子。書家としても有名。56代・清和天皇に仕えた。

 

23. 月見ればちぢに物こそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど/大江千里

23. 月見ればちぢに物こそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど/大江千里(おおえのちさと)

つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど

(訳)
月を見ればあれこれ物悲しくなってしまうなあ。(白楽天のように)私一人だけの秋ではないのだけれど。

(解説)
・唐の詩人・白楽天の「白氏文集(はくしもんじゅう)」にある漢詩を元に詠まれた。「秋の夜は自分一人のためにだけ長い」

・漢詩を和歌にアレンジして詠むのが得意だった。


(作者)
大江千里(おおえのちさと)。平安初期の漢学者・大江音人(おおえのおとんど)の息子。

在原業平(17)、在原行平(16)の甥っ子。菅原道真(24)と並ぶ漢学者。阿保親王のひ孫。文章博士(もんじょうはかせ)。

 

(参考)
白楽天『白氏文集』の『燕子楼(えんしろう)』という詩。

燕子楼中霜月夜 秋来只為一人長
えんしろうちゅうそうげつのよる、あききたってただひとりのためにながし

燕子楼で長年一人暮らしていた、死亡した国司の愛妓が、月の美しい秋寒の夜に「残されたわたし一人のため、こうも秋の夜は長いのか」と詠んだ。

 

31. 朝ぼらけ有明けの月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪/坂上是則

31. 朝ぼらけ有明けの月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪/坂上是則

あさぼらけありあけのつきとみるまでに よしののさとにふれるしらゆき(さかのうえのこれのり)

(訳)夜がほのぼのと明ける薄明りのころ、明け方の月で明るいのかと見間違うほどに吉野の里に雪が降り積もっています。

(解説)
・奈良・吉野を旅したときに宿で詠んだ歌。

・朝ぼらけ・・夜明け前のまだ暗い頃。あたりがほのかに明るくなるころ。


(作者)坂上是則。三十六歌仙の1人。蝦夷討伐の征夷大将軍・坂上田村麻呂の四代目の孫。蹴鞠が得意で60代醍醐天皇の前で206回蹴り上げ、褒美に絹をもらった。

<奈良・吉野>
・吉野はこの頃はまだ桜ではなく、雪という感じ。

・吉野は天武天皇が壬申の乱で挙兵した場所。持統天皇は吉野の地がお気に入りで33回訪れたという。(⇒漫画『天上の虹』では唯一2人で過ごせた場所だから思い入れがあったとある。)

36. 夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月宿るらむ/清原深養父

36. 夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月宿るらむ/清原深養父(きよはらのふかやぶ)

なつのよは まだよいながら あけぬるを くものいずこに つきやどるらん

(訳)
夏の夜は短いのでまだ宵(夜)だと思ってるうちに開けてしまった。雲のどのあたりに沈み切らなかった月は宿にしているのだろう。

(解説)
・「宵」・・夜に入ってすぐ。「夕」のあと。「夜半」の前。


(作者)
清原深養父(きよはらのふかやぶ)。清少納言62「よをこめて」の曾祖父(ひいおじいちゃん)。清原元輔42「契りきな」の祖父。琴の名手。