23. 月見ればちぢに物こそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど/大江千里
つきみればちぢにものこそかなしけれ わがみひとつのあきにはあらねど(おおえのちさと)
(訳)月を見ればあれこれ物悲しくなってしまうなあ。(白楽天のように)私一人だけの秋ではないのだけれど。
(解説)
・唐の詩人・白楽天の「白氏文集(はくしもんじゅう)」にある漢詩を元に詠まれた。「秋の夜は自分一人のためにだけ長い」
・漢詩を和歌にアレンジして詠むのが得意だった。
(作者)
大江千里(おおえのちさと)。平安初期の漢学者・大江音人(おおえのおとんど)の息子。
在原業平(17)、在原行平(16)の甥。菅原道真(24)と並ぶ漢学者。阿保親王のひ孫。文章博士(もんじょうはかせ)。
(参考)
白楽天『白氏文集』の『燕子楼(えんしろう)』という詩。
燕子楼中霜月夜
えんしろうちゅうそうげつのよる
秋来只為一人長
あききたってただひとりのためにながし
(亡くなった国司の愛妓が燕子楼で長年一人暮らしていた。月の美しい秋寒の夜に「残されたわたし一人のため、こうも秋の夜は長いのか」と詠んだ。)