97. 来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ / 権中納言定家(ごんちゅうなごんていか)
(読み)こぬひとを まつほのうらの ゆうなぎに やくやもしおの みもこがれつつ
(訳)来ないひとを待つ私は、松帆の浦(淡路島の北端)の夕なぎのときに焼いている藻塩のように、身も焦がれるほどに恋しているのですよ。
(解説)
・いつまでも待っている女性の心。わが身が恋いこがれる意に、藻塩が焼けこげる意を掛けている。
・万葉集からの本歌取の歌。
・「まつ」は「松帆の浦」と「待つ」の掛詞。
・「焼く」「藻塩」「こがれ」は縁語。
・「まつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の」までが「こがれ」を導き出す序詞(じょことば)。
(作者)権中納言定家(ごんちゅうなごんていか)。藤原定家(ふじわらのていか・さだいえ)。(1162~1241・享年79)。百人一首の撰者。
『新古今和歌集』『新勅撰和歌集』の撰者。俊成の「幽玄」を深化させ「有心体(うしんたい・妖艶な余情美)」を理想とした。
漢文の日記『明月記』、歌論書『近代秀歌』など。
式子内親王(89「玉のをよ」)に憧れを抱く。
父は皇太后宮大夫俊成(藤原俊成)(83「世の中よ」)。