5. 奥山にもみじ踏みわけ鳴く鹿の 声きく時ぞ秋は悲しき / 猿丸大夫
おくやまにもみじふみわけなくしかの こえきくときぞあきはかなしき(さるまるだゆう)
(訳)奥深い山の中に紅葉を踏み分けやってきて、鹿の鳴き声をきくと秋の悲しさがひとしお身に染みることです。
(解説)
・オスの鹿はメスを求めて「ピー」と鳴く。この鳴き声は秋の季語。
・秋の山の情景(目)と、鹿の鳴き声(耳)があいまって、人恋しさが募る。
・9世紀末の「是貞親王の家の歌合」で詠まれた。(是貞(これさだ)親王は58代光孝天皇(15)の皇子。59代宇多天皇の同母兄。)
・当時すでに秋は悲哀の季節と思われていた。秋の収穫を喜ぶ農耕生活ではその発想は出てこず、都会的精神と思われる。
・この歌は古今和歌集では詠み人しらずになっている。
・係り結び「ぞ」⇒「悲しき(連体形)」
(シク活用「しく・しく・し・しき・しけれ・〇」)
(作者)
猿丸大夫(さるまるだゆう・たいふ)。実在さえも疑われる伝説的歌人。三十六歌仙の1人。