86.嘆けとて月やは物を思はする かこち顔なるわが涙かな/西行法師(さいぎょうほうし)
なげけとて つきやはものを おもわする かこちがおなる わがなみだかな
(訳)嘆けといって、月は物思いをさせるのだろうか。いや、そうではないのに、月にかこつけて恨めしそうに落ちてくる私の涙よ。
(解説)
・「月前恋(げつぜんのこい)」というお題で詠まれた。恋の切なさ。
(作者)西行法師(さいぎょうほうし)。佐藤義清(さとうのりきよ)。鳥羽院を警護する北面の武士だったが23才で妻子と別れて出家。生涯旅をして過ごした。
各地を旅して『山家集(さんかしゅう)』(1570首)『西行上人集』などの歌集を残す。『新古今和歌集』には94首もの西行の和歌が選ばれている。
83「よのなかよ」の藤原俊成とも親しく、俊成の歌は西行の出家も影響しているといわれる。
「願わくは花のもとにて春死なん その如月の望月のころ」(ねがわくははなのもとにてはるしなん そのきさらぎのもちづきのころ)という自分の和歌のとおり2月(如月)16日(望月=満月)に亡くなった。
釈迦の入滅が2月15日で同じ頃にと望んだ。現在でいうと3月後半ごろなのでまさに花(桜)の時期。